大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 昭和29年(行)26号 判決 1957年2月25日

原告 本宮鉄五郎

被告 岩手県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告が昭和二九年一〇月九日附岩手か一、六二三号令書をもつて別紙目録記載の農地についてした買収処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、岩手県農地委員会は、地元荒沢村農地委員会の権限を代行して、昭和二四年一〇月二八日原告所有の別紙目録記載の農地について昭和二〇年一一月二三日の基準時現在の事実にもとづき、旧自作農創設特別措置法第三条第一項第二号による買収計画を定め、昭和二四年一一月九日これを公告しその後所定期間その書類を縦覧に供した。原告は同月二〇日同県農地委員会に異議の申立をしたが同月二三日棄却されたので、更に昭和二五年二月一六日被告に訴願を提起したが、同年六月一二日これまた棄却された。被告は所定の承認手続を経た上、昭和二九年一〇月九日、買収時期を昭和二四年一二月二日と定めた買収令書を発行し、昭和二九年一〇月二二日原告にこれを交付して、右農地の買収処分を行つた。

右の買収処分には次のような違法があり取消さるべきである。

(1)  別紙目録記載農地は基準時において原告の自作地である。

右農地は従来五日市春治に小作させていたが昭和二〇年一〇月中旬代替地として字新町八番畑一反歩、字寺志田一一〇番畑一反五畝歩同字九九番田一反八畝歩計四反三畝歩をあたえて右小作契約を合意上解約した。

(2)  基準時現在における原告保有農地総反別は三町三反七畝六歩であり、うち

(イ)  荒廃地二反三畝一九歩

(ロ)  小作地一町八反九畝四歩

このうち係争地を除いて爾後の買収地は一町一反八畝二歩

(ハ)  残存小作地七反一畝二歩

(ニ)  自作地一町二反四畝一三歩

となつている。保有限度内の小作地を買収することは違法である。

(3)  別紙目録記載農地中一〇七番田は二反七畝二八歩であるが前記買収処分はその一部一反七畝二八歩についてなしたのであるに拘らず、その範囲が計画においても令書においても不明確である。

(4)  昭和二四年一二月二日を買収期日としてその後約五ケ年をへた昭和二九年一〇月二二日に令書を交付してなした買収処分は不相当である。

と述べた。

被告は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中(1)乃至(4)は否認するがその余の事実は認める。

(1)  原告主張農地につき五日市春治が小作をやめたのは昭和二一年春であつて、昭和二〇年一一月二三日当時は同人の小作地であつた。

(2)  原告の基準時現在における所有農地の合計は三町三反一畝二九歩で、その内訳は

(イ)  小作地二町五反五畝一二歩

(ロ)  自作地七反六畝一七歩

であり、原告主張の買収計画樹立前に買収となつた農地は合計二反九畝二七歩であるから、計画樹立当時の小作地は二町二反五畝一五歩となる。従つて原告主張買収処分には保有限度を超えて買収した違法が存しない。

(3)  一部買収の事実は認めるがその範囲は現地において明確である。

と述べた。

(立証省略)

理由

原告請求原因前段に主張の買収手続関係事実は当事者間に争がない。

一、先ず昭和二〇年一一月二三日当時、本件農地が小作地であつたかどうかについて判断する。

証人五日市定身、軽井沢種吉の各証言、成立に争のない甲第一号証の一乃至三、乙第一乃至第三号証を綜合すれば、五日市春治は大正三年以来原告から本件農地を刈束五分の約定で借受け耕作してきたが、昭和二一年春原告から寺志田九九番田一反八畝(軽井沢種吉が原告から借受け小作していたもの)などを替地にやるから返えして貰いたいと申入れられた事実。春治は右替地が収穫の少ないやせ田であるためこれを断つたが、原告はこれを無視し四月頃から耕作を初めたので、春治はやむなく右替地を耕作するに至つたことを認めることができる。

原告は右小作地の返還を受けたのは昭和二〇年一〇月中であると主張し、原告本人は右主張に副う供述をし、又成立に争のない甲第二、三号証の各三、第七号証の二には右主張に副う供述記載があるが、いずれも前記証拠に対比して信用し難い。成立に争のない甲第六号証の調査結果も乙第三号証より信頼しうるとはいえない。甲第八号証の末尾の記載は伊藤由太郎が昭和三一年七月九日に記載したものであること証人伊藤由太郎の証言により認められ、後日の記載であり、甲第九号証の年月日の記載のインクの色筆蹟などの点から作成当時の記載と認め難く又原告がその主張の証拠として提出した甲第一〇号証は作成日附の記載がなく、これについての証人伊藤由太郎の証言は単なる推測に止り、又編綴の前後の書類の日附からしても、同号証が昭和二〇年一〇月頃提出されたものとは必らずしも認め難いので、甲第一〇号証は原告主張の証拠とするに由ない。その他原告提出援用の各証拠によつても前示認定を覆えし原告主張事実を認め難い。

されば、本件農地は昭和二〇年一一月二三日当時五日市春治が小作していた小作地であると認むべきであるから、自作地であることを理由に買収処分の取消を求める原告の請求は理由がない。

二、行政庁の違法な処分の取消を求める訴は、各取消原因である違法の事由がそれぞれ一個の請求原因であり訴訟物をなすと解すべきところ、原告はこれと異なる見解に立ち、訴状において本訴の請求原因として主張する(1)の事由の外、右請求を理由あらしめる攻撃方法として(2)乃至(4)の事由をも主張しているが、右(2)乃至(4)の事由は、それぞれ別個独立の請求の原因であり、(1)の事由に基く本訴請求を理由あらしめるものとして審査すべき限りではない。しかも右(2)乃至(4)の事由は、本件買収処分(昭和二九年一〇月二二日)後一ケ年以上も経過し出訴期間が満了した後である昭和三一年一月三一日の口頭弁論期日において同日付準備書面に基いて始めて主張されたこと記録上明らかであるから、この点の原告の主張は失当である。

よつて民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 村上武 瀬戸正二 中平健吉)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例